
米ニューヨーク州ウッドストックの森に暮らす岡山県出身の作家・小手鞠(こでまり)るいさんが、ふるさとの読者に向けてつづるコラム。今回は、動物たちのにぎやかな声に包まれた、初夏のウッドストックの森へいざなってくれます。
ようこそ、おしゃべり森へ

読者の方からこんなお便りをいただきました。
【森の家と聞くだけで、気持ちの良い空気が感じられます。夫の仕事の関係で岡山へ20年前に引っ越してきました。岡山で子どもたちが成長できたこと、良かったと思いました。今、東京・大阪にいる息子たちですが、気持ちがしんどい時は岡山を思い出すそうです。Tさん・60歳】
私の気持ちがしんどくなることはありませんが、私もいつも岡山を思い出して、晴れの心になっています。私が29年前にアメリカへ引っ越したのも、夫の仕事(というよりも勉学というのが正しい)の関係です。
最初の4年間は、彼が所属していた大学院のある町で暮らしていたのですが、修士課程を修了し、もう一度ふたりで日本へ行く(私は帰国ですね)か、それともアメリカに残るか、迷っていたとき、ふと目に留まったのが新聞「ザ・ニューヨーク・タイムズ」に出ていた「ウッドストック特集」という記事。豊かな大自然に恵まれた、芸術村みたいな町に心をひかれて、ウッドストックを訪ねてみたのです。その結果、ふたりとも見事にウッドストックの町、ではなくて森にノックアウトされ「ここに住みたいね!」と、意見が一致してしまいました。
それ以来ずっと、町はずれの森の中で暮らしています。家は、マウント・トバイアスという山の中腹に立っていて、周りには樹木が生い茂っています。森では、鹿、くろくま、野うさぎ、りす、しまりす、やまあらし、七面鳥、ふくろうなどなど、数え切れないほどの野生の生き物たちが暮らしています。先住民である生き物たちを尊重し、我が家ではとにかく「生き物ファースト主義」を貫いています。小鳥が玄関先に巣を掛ければ、玄関は使用禁止。鹿に池の睡蓮(すいれん)をぱくぱく食べられても文句は言わず。
初春から秋の終わりまで、池の周りでは、さまざまな種類のかえるたちがさかんに鳴いています。朝は小鳥たちの歌声が目覚まし時計で、夜はかえるたちの合唱が子守唄。朝から晩まで、森はおしゃべりなのです。
人の作った騒音や雑音とは違って、生き物たちの声や歌には心が深く癒やされます。冬は冬で、雪の景色に癒やされます。森で暮らしている限り、ストレスというものがまったくたまりません。だから、でしょうか。いつもすらすら原稿が書けてしまいます(笑)。自慢になりますけれど、私、締め切りに遅れたことは一度もありません!
小手鞠さんから、抽選で3人にプレゼント
最新刊『おしゃべり森のものがたり』

この物語を読んでいただくと、主人公の舞ちゃんといっしょに、日本からマンハッタン経由でウッドストックの森を訪れることができます。彼女が滞在する森の家は、うちの家がモデルになっています。画家の長田恵子さんは、ニューヨーク州の森に生えている植物、住んでいる動物たちを研究して、それらを絵で再現してくださいました。
◀『おしゃべり森のものがたり』(フレーベル館、1430円)
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さりお2021年6月11日号掲載